Part 04

実戦・成長編

コーチャーを極める

ITEM 23〜28

Think, train, live

  • 読了目安 約15分
  • 原書 p.54〜65

23カットプレー、ゴロゴー、タッチアップ

カットプレー

野球の攻撃の基本というのは、まず塁に出ること。そして出た走者がどれだけ進め、どれだけホームにかえり得点するかということです。一塁に出た走者がMAXで3つ塁を進めれば得点になりますね。それを求めているわけです。相手野手のカットプレーの隙を突くのも、走者を進めるための1つの方法です。走者一塁で左中間へ転がるヒットが出たとします。通常なら一塁走者は二塁でストップですが、ただNO GOで終わらせてはいけません。相手野手のカットプレーの間にミスが出ることがある。捕球した外野手が油断して内野手へふわっと投げてしまう。そんな場合は一気に次の塁を狙うんです。

カットプレーでのミスがよく見られます。コーチャーはカットプレーのミスがあることを前提に見ておかなければいけません。

内野フライ

走者なしの場面で内野フライが上がりました。「打ち上げてしまった」「アウトになってしまった」と、それで終わりにしてはいけません。特に夏の大会では日差しが強いですから、内野手がフライを落としてしまうことがある。だから、内野フライでも打者走者は全力で走ること。高いフライが上がって、内野手が落球したら、二塁打になりますから。

守ってる方からすれば「内野フライでアウトだ」と思っていたのが二塁打などになってしまうと、これはダメージが大きいです。

内野フライでも、アウトになったと決めつけないで二塁まで全力疾走する。コーチャーはそういう指示を出さなければいけないし、チームとしてこれは徹底すべきことです。

ゴロゴー

走者一、三塁のケース、走者二、三塁のケース、走者三塁のケースとあります。走者一、三塁の場合、攻める側としては一番たくさんの引き出しがあります。いろんな手を考えながら焦らず攻めていきましょう。一塁走者を走らせて、一、二塁間に挟まれている間に三塁走者が本塁を突くとか。打者はバントの構えをして、スクイズと思わせて打たせるとか。

逆に守る側からすれば、走者一、三塁というのは一番苦しい場面です。内野の守備範囲があくし、相手はいろいろなこと仕掛けてきますから。この状況をどうしのぐかというのは、難易度の一番高い問題です。

タッチアップ

タッチアップで大事なのは、この三塁走者がスタートから本塁まで何秒でいくかということ。外野手が捕球してからよーいドンになりますから。走者が何秒でかえってくるか。外野手は捕ってから何秒でホームに送球できるか。外野手のホームへの送球タイムは、試合前のシートノックのときに外野フライとバックホームがありますから、そのときに計っておくのがよいです。

その際に、気をつけなければいけないのは、外野手のコントロールがよいか悪いか。いくらタイムが速くてもコントロールがアバウトだと、捕手が飛び上がって捕ってタッチ、なんてやってる間にセーフになります。

あと、ファウルフライのときも、全球タッチアップのつもりで意識しましょう。相手の野手が油断していることがあります。こないだろうと思ってるとこを突いて、一塁走者は二塁へ、二塁走者は三塁を狙うんです。

24コーチャーの思考

その日の試合が終わったら、コーチャーもパフォーマンスを振り返り、分析します。そのときは、GOOD、BUT、NEXTの順で考えるようにしましょう。

GOODというのは、まずその日の自分のパフォーマンスの中で、よかったところ、うまくいったところ、成功したところを押さえてイメージすることです。

そして次はBUT、課題です。この日のパフォーマンスで、うまくいかなかったところを押さえる。「BAD=悪かったところ」ではなく、「BUT」という言葉を使います。「BAD」では自分のパフォーマンスに悪いイメージを持ってしまいますから。

そしてNEXT、次の試合ではどういうことを意識すべきか、自分のパフォーマンスを向上させることを前向きに考えてゆくのです。

例えば試合を振り返って、走者一塁でヒットエンドランの場面、走者を三塁へ行かせるとき、指示を出すタイミングが遅かったなぁ、それによって一塁走者がライトからの返球でアウトになってしまったなぁ。もっと早く指示を出していれば、アウトにならなかったのに……。

最初から、うまくいかなかったことを振り返ってしまうと、考え方が後ろ向きになってしまいます。だめだったことを先に考えてしまうと、モチベーションも下がってしまいます。なので、例えばまずGOOD、アウトにはなってしまったけれど、一塁走者とシンクロすることができていた。いいイメージをまず押さえるんです。その次に、BUT、回ったときのジャッジが遅くて今回はうまくいかなかった。今度は早めにジェスチャーを出すようにしよう、ということでNEXTにつなげていくんです。

さらに言えることは、完全にセーフだと思って回してもアウトになってしまうことがある。そういうときも前向きに「この判断自体は悪くなかった」と、まずはGOODの方を考えることが大事です。思考がマイナスにならないように、まずはGOODから入ること。

あのときは走者とシンクロしていて、こういう判断ができた。コーチャーとして、自分はそこはOKだ。しかし審判はこう捉えてしまった。そこは事実。次に切り替えて、次はこういう指示をするようにしようと、試合中に切り替えることが大事です。

逆に、アウトだと思ったのがセーフになることもある。これはうまくいかなかった、ミスをしてしまったなと思っていたらセーフになるということもある。そういうときは、ここは結果論としてはセーフになったけれど、この点はもっとこうしなければいけない、ああしなければいけないと、「BUT」を深掘りすることが必要です。

結果論でOKではだめなんです。結果はよかったけれど、次はここを締めてかからないといけないぞ、ラッキーなことにセーフだったけれど、実際、コーチの判断としては、ここはこうした方がよかったなとか、そういう分析が必要です。

目先の結果に一喜一憂することなく、冷静に分析して試合中でも「GOOD」「BUT」「NEXT」のサイクルを回していきましょう。

「GOOD」「BUT」「NEXT」の思考回路は、1試合1試合の短いスパンで回していくことも必要ですし、1シーズンを通して自分のパフォーマンスはどうだったのか、チームのパフォーマンスはどうだったのか、長めのスパンで回していくことも必要になってきます。

「GOOD」「BUT」「NEXT」の思考回路は、野球に限らず、他のスポーツでも通用する考え方です。試合中とかハーフタイムとか、試合中でも5回を終えたあとのグラウンド整備のときに「GOOD」「BUT」「NEXT」を回していって、後半戦につなげていくのもよいでしょう。

25コーチャーの道具

ストップウオッチ

これは必須です。二塁走者がスタートから高校野球では6秒3〜6秒8で本塁に戻って来られるか。練習のときから計っておかなければいけません。さらには、相手の外野手がバックホームの際、捕球してから送球が捕手に届くまで何秒かかるか。これはシートノックのときに計っておかなければいけない。

ストップウオッチは自分のなじんだものを使うのがよいです。タイムをいつもチェックするということが大事です。

盗塁においてもタイムが大事です。相手投手がクイックで投げ込むのに何秒、相手捕手が捕球してからの二塁送球に何秒かかるか。走者がスタートを切って二塁に到達するのに何秒かかるのか。そこを計っていかなければいけません。

味方の走者に関しては、二塁から本塁まで何秒、三塁タッチアップで何秒、一塁から三塁まで何秒など、練習で計っておくことが大事です。

それでも実際の試合では、そのときそのときのコンディションもありますから、走者が常にベストタイムで走れるとは限らないわけです。疲れていたり、足を痛めていたりしたら、いつものタイムより遅くなる。ベストタイムよりも0.2秒遅くなることだってある。0.2秒といったら、1m40cmぐらい違うわけです。ベストタイムより速くなることはないけれど、遅くなることはある。それも頭に入れておかなくてはいけません。

コーチャーメモ、コーチャーカード

練習や試合前のシートノックで計ったタイムをメモしておくように、ポケットの中に常にメモ帳を入れておくとよいです。

コーチャーカードというのは、コーチャーとして自分が特に重点的に意識していることをカードに書いて持っておいて、試合前にそれを見るんです。例えば私ならば「三塁ベース前……NO GO」「三塁ベース通過……ゴー」「三塁ベース上……勝負」とか。この本の中のエッセンス、本を読んで重要だと思った点をカードに書いて持っておく。そして試合前や試合の合間にそれを見る。

試験前に見る英単語カードと一緒ですね。お守り代わりにポケットにしのばせておきましょう。

コーチャー日誌

試合や練習のあと、今日の自分のパフォーマンスはどうだったか分析しますね。そのときには、「GOOD」「BUT」「NEXT」のサイクルで分析し、日誌にまとめておきましょう。

毎日毎日、毎試合毎試合、日誌を書いていくことによって、自分の中に積み重ねができてきます。自分の書いた日誌を何度も読み返すことによって、こういうケースではこうしなきゃいけないんだ、こういう場合にはこうするとよいんだ、というイメージが自分自身の中に固まってくる。それが潜在意識の中にあれば、ギリギリの局面での判断、一瞬でのジャッジもスムーズに出せるようになるんです。

大事な試合のチャンスの場面で、球場全体が「回せ!」という雰囲気になっている中で、コーチャーは冷静になって判断しなければいけないのです。そのときのために、日々の分析を日誌に記し、何度も読み返しましょう。

26コーチャーのイメージトレーニング

イメージトレーニングもGOOD、BUT、NEXTで

今までの試合経験の中で、いろんなケースがフラッシュバックされるはずです。それを頭の中でイメージ、再現してみます。

目をつぶって深呼吸をしながらイメージします。深呼吸は特に息を吐くときの意識が大事。まずゆっくり口から吐いて鼻から吸う。自律神経、副交感神経をリラックスさせて、頭の中で今まで経験したケースをイメージしてみましょう。

GOOD、BUT、NEXTで、必ずうまくいったところ、よかったところをまず思い浮かべて。そして、うまくいかなかったところ、課題となった場面を思い浮かべる。そして次にはどうしなければいけないのか。このサイクルが名コーチャーになる極意です。

うまくいかなかったとしても、その場面ばかりをイメージしていては、それがイメージとして残ってしまう。本当は止めなきゃいけない場面なのに、また回してしまったりとか。頭では分かっているんだけれど、身体が反応してしまうことがあるんです。そうならないように、一回きれいに、メンタルをゼロにする。メンタルトレーニングでは、心を整える力「整心力」と言うんですが、これが非常に大事です。

うまくいったときこそシビアに分析する

うまくいった場面に関しても、冷静に振り返ることが必要です。あそこはいい判断だったと周囲から言われていたとしても、もし外野手が強豪校の、あの中堅手だったらいけただろうかと。レベルの高い外野手だったらあそこは厳しかったかもしれない。スタートはどうだったのか、判断はよかったのか、回したタイミングはよかったのか、そのあたりをシビアに見ていかなくてはなりません。結果オーライで全部よしとはいかないのです。うまくいったときこそ、細かく分析した方がいい。うまくいったときって、気分が高まっているのでエネルギーがあるわけです。だから詳細に詰めていくことが大事です。

一番よくないのは、うまくいかなかったときにガッカリ、うまくいったら「やったー」と結果論で揺れてしまうことです。

自分はセーフだと思ってもアウトと判定される場合だってあるんです。「え?アウト?」という場合も出てきます。逆に「アウトかな?」と思ってもセーフと判定されるときもある。ジャッジに関しては自分たちではコントロールできないもの。アウト、セーフ、どちらともとれる場合がある。0.1秒=70cm、0.2秒=1m40cmの中での攻防をしているわけですから、結果に一喜一憂していてはいけません。コーチャーとしてやるべきプロセスをちゃんとやったならば、そこは自分の中で分析して次に切り替える。

カード、メモでイメージトレーニング

場面に関しては、走者一、二塁、走者一、三塁、走者二塁とか、アウトカウントがこのときはどうすべきだとか、試合の序盤、中盤、終盤でどうすべきかとか、負けてる場面、勝ってる場面でどうすべきかとか、そういうところを自分でシミュレーションして、カードに書いておくとよいでしょう。カードの表に状況を書いて、裏にどうすべきかを書いておく。それを何度も見返すことがイメージトレーニングになります。カードは遠征へ向かうバスの中でも、電車の中でも見ることができますから、空いている時間でイメージトレーニングをすることができます。

27コーチャーのフィジカルトレーニング

ダッシュ

アウトになるか、セーフになるか、クロスプレーでは0.1秒〜0.2秒の攻防、70cm〜1m40cmの攻防が勝負の分かれ目になります。走者は全力で走って来るわけですから、コーチャーも0.1秒〜0.2秒の感覚がなければ正しい判断はできません。走者が0.1秒〜0.2秒にこだわってやっているのに、コーチャーがもたもたしているわけにはいかないでしょう。こちらも走る感覚、向こうも走る感覚、走者とコーチャーが一体化する感覚です。0.1秒〜0.2秒の攻防、70cm〜1m40cmの攻防を制するために、普段からコーチャーも練習でダッシュしておく。攻守交代のときも、もちろん全力疾走です。

マスターアイ

自分の利き目を知っておくために、アイトレーニングをしておきましょう。普通、右利きの人は右目がマスターアイなんです。僕はもともと左利きなので、左目がマスターアイです。そうすると、左目で位置を確認するんですね。ボールの位置、外野手の位置、走者の位置を左目で確認しています。逆に、右目がマスターアイの人はボールの位置、外野手の位置、走者の位置を右目で確認するのがよいです。

コーチャーにとって、目はすごく大事。打った瞬間にどの態勢で見るのがよいのか、これも普段からいろいろ試してみておくことが必要です。ボールも外野手も走者も動いていて、コーチャーも動きながら判断するわけですから、マスターアイ、どの位置で見るか、これは大事です。眼球トレーニングをしておくことが必要です。

シャドーコーチング

コーチャーの場合は、声とボディーランゲージが重要になっていきます。昨春のWBCでは大谷翔平選手が二塁走者になったとき、大きなボディーランゲージで味方ベンチを盛り上げていましたね。コーチャーも自分の行動で、動きで相手に伝えなければいけません。止める、動く、回すを、大きな動作と声で反復練習しておきましょう。

止めようと思って大きく止める動作をしたつもりでも、それが走者からどう見えているのかは、自分では分からないものです。自分が思っているよりも実際は小さい動きになって、走者から見ると分かりづらい、ということが少なくありません。大きな動作になっているかどうか、鏡の前でやってみて反復練習しておくとよいです。

自分では大きな動作でやっているつもりでも、鏡で見てみると動作が小さいなとか、分かりにくいな、ということがあったりします。走者の立場に立って見ることが必要です。あるいは、他の人に見てもらって、大きい動作になっているか、見やすい動作になっているか、意見をもらいましょう。

究極は、コーチャーは回すときは何もしない、止めるときだけ動作、指示を出す、というのもありますが、基本の段階では、大きく動作を出してあげましょう。

基本ができるようになったら、次は応用編です。あまり動作を大きく出さないとか、動作のないときは全部ゴーにするとか。回しているときはストップ、止めているときはゴーというふうに、フェイクを使ってくるチームもあり、いろいろな応用ができます。まずは自分の動作が走者からどう見えるか、鏡で見て練習しましょう。

マスターアイの調べ方

数m離れた目標物(壁に掛けてある時計など)を決め、それを人差し指で指さします。この状態で片目ずつ閉じてみてください。どちらかは目標物を指さして、どちらかは横にずれているはずです。指さした目標物に対して指がずれずに合っている方がマスターアイです。

28人生の三塁コーチャー

コーチャーの勝負運

「超機働力〜0.2秒を制す」ということをテーマに、チームの得点力を上げるためのコーチャーの思考、判断、技能についてここまで解説してきました。みなさんには本書をしっかり読み込んだ上で、実戦でそれらを生かせるように取り組んでほしいと思います。

ただ、ここまでに解説した思考、判断、技能をもし極めたとして、やはり野球の試合というのは生き物なのです。審判の判定もそうです。人間のプレーを人間が判断するわけですから。「セーフだな」と思ったものが「アウト」と判定されることもある。逆に「アウトだ……」と思ったものが「セーフ」と判定されて、救われることだってあるんです。

最後の最後、勝負所ではコーチャーの勝負運も試される。だから、グラウンド内での取り組みだけではなく、グラウンド外、学校での振る舞い、友人との関係、そういったところまで見つめていきましょう。

自分の学校生活を見つめ、自宅での生活を見つめ、友人やチームメイト、先生、家族との関わりを見つめ、やるべきことをしっかりやっていこう、ということです。

人生においても思考と判断を生かす

選手もコーチャーも、いつかは現役選手を引退しなければいけないときがきます。人生百年時代ですから、引退後の人生の方がずっと長いんです。みなさんには、コーチャーとして学んできたことを、これからの人生においても発揮していってほしい。チームの勝利を目指して真剣に野球に取り組んできた経験は、仕事においても人生においても家庭においても、生かしていけるものだと私は信じています。

人生において、日々の判断や大きな決断をしなければいけないときが必ずやってきます。積極的に腕をまわしていこう、という局面もあるでしょう。いや、ここはリスクが大きい、慎重にいこう、という局面もあるでしょう。基本はGOなんだけど、ここはいったん止めてワンクッション置く、そして状況を見て再度GO、という局面もあると思います。ストップじゃなくて、止めゴーです。

私自身も、三塁コーチャーを経験して学んだことから、仕事に生かせたこと、人生に生かせたこと、家庭で生かせたこと、たくさんあります。三塁コーチャーは得点のチャンスで最終的な判断をする立場です。みなさんは、仕事での三塁コーチャー、組織での三塁コーチャー、家庭での三塁コーチャー、人生での三塁コーチャーとして、野球で培ったことを今後の人生で大いに活かしてほしいと思います。

一塁、二塁、三塁ベースは四角なのに、本塁だけは家の形をしていますよね。「ホーム」ベース(原点)ですからね。知恵を絞り、全力を尽くし、一塁、二塁、三塁を回って「ホーム」ベースへかえってくる。そこには人間の生き様みたいなものを感じます。この『三塁コーチャーバイブル』を、野球を愛する人々、三塁コーチャー、ランナーコーチャーに捧げます。